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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第28章 今宵はふたりで Ⅱ【P273〜の続き、‎🤍&🐾 ♟️*】


「あぁ」

震える指をこちらへと伸ばしてくる。



その指がヴァリスに触れかせた刹那、びくりと肩を跳ねさせてしまう。

その所作を見て、女は悲しそうにそのおもてを曇らせる。



その表情を見て、その胸の内を焔が燻りはじめた。



————なんて白々しい—————


————なんて下手な演技————


————あなたのせいで、………あなたのせいで、私は……!————


視界を真っ赤に染め上げる程に、紅くあかく燃え上がる感情。

その一方で妙に冷静な自分が戸惑いを染みのように広がらせていた。



(私は、この人を知らない。なのに、………なんで、)

この人に、こんなにも怒りを感じているの……?



怒りと戸惑い。逆さ合わせのように正反対な感情に支配され、

混沌とした心を抱え呆然としている彼女をよそに、女がその紅い唇をひらく。



「あなたは、本当に………、」



「………?」

戸惑った瞳でその眼を見返す。

その白魚のような指が、再度ヴァリスへと伸ばされた刹那。



ザァッ……!と花弁と花の匂いとを巻き上げて、

ヴァリスとその女との間に強い風が吹き荒れる。



まるで眼に透けぬ力を持って、何者かの手によって、ふたりの間を阻むように………。



周囲に植物はおろか、野花ひとつ植わっていないのに、

それでも薫るその芳香は

花を育てることが好きだった母が殊更に愛し慈しんでいた、あの花の匂い。



(リラの、花………。)

それは母親と同じ名を持つ、深い紫に染まる

ヴァリスにとっては懐かしくも残酷な思い出を宿す花。



別名ライラックとも呼ばれるその花の花弁を、ヴァリスは掴み取ろうと指を伸ばした。



「待って———、」
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