第27章 今宵はふたりで【過去作派生中編 🤍→主←🐾 ♟️】
「……ふぅ」
一人中庭に残されたヴァリスは、仮面の眼窩越しに夜空を見上げた。
大きな丸い月が空を統べ、銀砂のごとく散りばめられた星々がその煌めきを競うように瞬いている。
ヴァリスは踵の高い靴を密やかに打ち鳴らして、白木蓮の植木に近づいた。
(綺麗………。)
白く清らかな純白き染め上げるその花は、シロの姿を思い起こさせる。
尊大で誇り高い物言いでも、
その言葉のふしぶしに生来の優しさが滲む彼の言動を思考に載せ、知らずその唇を笑みに染めていると。
「ねぇ、………貴女、」
おもてを上げると、そこには美しく着飾った少女がいた。
少女と言っても、ヴァリスと同じくらいの年齢に視える女性だ。
艶やかな黒髪を美しく結い上げ、華奢なその身に瞳の色と同じ鮮烈な紅いドレスを纏っている。
その顔の造りは繊細で優美なのに、
じろじろと無遠慮に注がれる眼差しは針のような鋭さを帯びており、
そしてその唇は不愉快そうに歪んでいた。
その人の名はたしか……シルビア。
「シルビア様………きゃあっ!」
その名を告げた刹那、ぱしん、と閉じた扇をヴァリスの喉元に突きつけた。
まるで短剣を宛てがうような所作に、
ヴァリスは忌々しそうな瞳で自分を睨み付ける彼女の双眸を見返した。
怒るでも咎めるでもなく、ただ静かにその瞳を見つめ返していると、
背後から伸びてきた指がヴァリスの後頭部に打ち付けられる。
ぱたり。みずからが倒れた音が、何処か遠くで聞こえた。