第4章 手を引かれる
「何でもないよ…少し喧嘩?みたいなのしただけ」
「…喧嘩ですか」そう呟いた七海君は「それにしては随分と色っぽい表情をしていますね」と続けた後、さらに私へとグイっと顔を近づけた。
その瞬間、私と七海君のおでこがくっつき唇が触れそうな距離でピタリと止まった。
「さっきも、今と同じ顔をしてましたよ」
触れそうで触れないこの距離に、七海君が話すたび吐息が私の頬を掠める。
キ、キスするのかと思った…
目の前に広がる綺麗で近すぎる顔に、ドクドクと心臓が痛みだし緊張で頭が沸騰しそうだ。
「……な、なみ…君…?」
やっと絞り出した声は、そんな小さすぎる声で
「あの人がそんな顔をさせたのかと思うと、ムカついてしまいました。でも今はまだ理性的なので、あなたの嫌がる事はしたくありません」
どゆ…こと…?
あの人って悟のこと…?そんな顔って…どんな顔?
「…悟がさせた顔って…?」
目の前の七海君を見つめ思わず口から出た小さな疑問の呟きは…
「今、他の男の名前をあなたの口から聞きたくありませんでした。せっかく理性を保っていたのに…」という七海君の言葉にかき消されるようにして唇を塞がれた。