第2章 水玉天国
俺に一瞥もくれずに猫のご機嫌を窺う美少女、俺はこの子を知っていた。男女問わず、双方から美人と噂が立っていた隣のクラスの子だ。
「栗原 千紘さん、だ」
「君同じクラスだっけ?」
「いや、隣のクラスの池田雅也」
「ふーん、池田くんか。君、どうしてここに?」
「何となく校内を歩き回りたくなって……」
「そうか、じゃあ僕と一緒だね」
(僕……?)
「君、猫缶かなにか持ってる?」
「まさか」
「そうか。そりゃそうだろうな」
「購買で売ってるか見てこようか?」
「いや、いいよ」
元気に鳴く猫にただ触れるわけでもなく、じっと息を潜めてここに佇む栗原さんの寂しそうな横顔を見て思う、大雨が隠したかったのはこの子なのではないか、と。
そこでようやく目が合う。
「あ」
「えっ」
「その子、君のこと気に入ったみたい」
さっきまで教室の隅で震えていた子猫が俺の足元へすり寄っていた。愛らしい様に身を屈め、そっと触れると一瞬体を揺らすも、目を細めた。
「君、動物に好かれる才能あるかもね」
「さぁ、どうだろう」
さっきまで静寂と見ていた雨に感謝してる。
轟音が胸の高鳴りを掻き消してくれているから。
雨がよく似合う、素敵な子に出会ってしまったから。