第4章 おむかえ
彼は踊り子のように宙を舞っていた。
優雅で緩慢に、まるで誘惑するような戦いぶりに、思わず剣を握る手が緩みそうだった。
リーバルもまた、柔らかな彼女の動きに見とれていた。
彼女が動く度、氷雪の剣から雪が迸る。白い鎧に身を包んだマヤはさながら戦乙女のようだった。
剣のことを悪く言ったのは申し訳なかったが、滅多に見ない氷雪の剣を使って戦う姿を見たいという欲に負け、あんな言葉を吐き出してしまった。
そう、これは僕の一目惚れ。
リト族の求愛行動なんて、ハイリア人の彼女が分かるはずがない。それなら、僕なりのやり方でやらせてもらおうと思ったまで。
僕の勇姿を魅せ、君の勇姿も魅せてもらう。
マヤは、顔の横を掠め、後れ毛をさらっていった矢に目を見開いた。
あと数ミリずれていたら、顔に傷を残されていたかもしれない。
思わず足がすくんで、腰が抜けそうになった。
一瞬だけよろけた彼女を、リーバルは見逃さなかった。
すぐさま距離を詰め、腰に翼を宛てがう。
自ずとお互いの顔は近くなり、リーバルは本能のままマヤに口付けをした。
───あぁそうだ、結局あの勝負には勝てなかったんだっけ…。
というか、リト族一の戦士に私なんかが勝てるわけないじゃない。
彼もわかってて勝負を挑んできたんだろう。私がこんな剣しか使えないから…。
ほんと、意地悪な人…鳥。
息を吐こうとしたが、代わりにドロっとしたものが口から出るのを感じた。
鉄の味がする。恐らく、吐血したんだ。
マヤには聞こえないが、彼女の喉からはヒューヒューという息遣いが聞こえる。恐らく、最期の時はすぐそこまで来ていた。
リンク、ちゃんと戻れたかな…ここから突き落とすなんて、かなり意地悪しちゃったなあ…
あぁ、もう一度、サーモンムニエル食べたかったなあ。我慢して1皿でいいなんて、意地張らなきゃよかった。
プルアの顔も見たかったな、帰れないなんて、きっと怒るだろうなあ。
それから、それから…と遠のく意識の海で、後悔を漂わせながら少しづつ、マヤの命の灯火は消えかかっていく。