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蒼穹、星空、雲の上(リーバル夢)

第1章 misericorde


最初はただの刺傷で、小さな玉のような血が指先からぷくりと生まれたところから始まった。

いや、もう少し前か…。あんな山奥にある石像に、供え物をしたからだ。
苔むし、所々汚れて、見たことも無い姿のその石像は、なんだか物憂げで、何もせずに通ることは出来なかった。

供物を置くであろう小さな皿は、石像に比べたらやや新しく、空っぽ。

一度素通りしようとしたが、何歩か歩いた後に向きを変え、結局石像の前に戻ってきてしまった。

何故そうしたのかはわからない。言うなれば、本能にも似た抗いようのない衝動だったから。

何か供えれるものはないかと鞄の中を探ると、冷たくスベスベしたものに手が当たった。

リンゴだ。さっき木になっていたもので、ちょうど食べ頃のような色づきだった。
リンゴをそっと皿の上に置いた途端、ズキリと心臓の辺りに痛みを感じた。
しかし、一呼吸したらすぐに良くなった。

平地よりも随分と高いところに来たから、きっと体が慣れていなかったからだろう。

そう、きっと。大丈夫───

と、その時はそう思っていた。



それから数時間後のこと。

山登りしている途中に、野いちごの群生を見つけた。
思いがけない発見に心を踊らせ、ついつい摘んでしまった。

手袋をしておけばよかったが、そんなことはすっかり頭から離れ、ぷちぷちと音を立てながら、小さな実を袋に入れていく。

面白いほどたくさん生えてるので、1つまた1つと摘んでいった。

「いたっ!?」

指先に鋭い痛みを感じ、慌てて手を引っ込める。

忌々しげに茂みの方をよく見てみると、小さいが鋭利なトゲが生えていた。

野いちごにトゲが生えてる個体は初めてだったので、つい油断したなあと考え、ため息をついた。

引っ込めた手の指先を見てみると、真っ赤な血が玉を作っていた。



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