第15章 最初で最後の嘘
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その日の夜の事。黒死牟が動き出したのか、グラウ自ら視覚を繋いできた。見えたのは目が増えた位で六十年前と変わらぬ姿の巌勝の姿だった
まゆ「縁壱さん、巌勝さんが外に出たわ!」
縁壱「兄上に見えぬ所まで連れて行ってくれるか?まゆは姿を現さぬ方が良いだろうから…」
まゆは「わかった」と言い、全身を隠せるような黒いローブを身に纏う。縁壱と抱き合う形で密着して空間移動をする
まゆ「着いたわよ。この先に巌勝さんは居るわ…」
まゆ)は縁壱を離さず抱き着いたままで、縁壱もギュッとまゆを抱き締めている
縁壱「まゆ、あの世と魔界は繋がっておるのか?」
まゆは縁壱の胸元に寄せていた顔を上げて目を見開いた。縁壱は微笑み、ジッとまゆを見つめている
まゆ「えぇ…この世、天国、地獄、魔界、神界は全て繋がっているわ…」
縁壱「それならまた会えるな…」
まゆは動揺し視界を揺らしながらも「えぇ、会えるわ!」と答えた
縁壱「まゆ、愛してる…」
まゆ「うん、私も…変わらないから、絶対だから!何があっても私は縁壱さんを愛してるよ…」
赤い月に見守られながら口付けを交わした二人は身体を離した。縁壱はまゆに背を向け、兄が居る方向に歩き出す
縁壱の姿が見えなくなるとまゆは自分のアストラルサイド(精神世界)に潜り縁壱を追う
まゆ「(縁壱さん私ね、一つだけ嘘をつきました。最初で最後の嘘だから、どうか許して下さい。ごめんね…私は縁壱さんを心から愛してます)だから、せめて最期まで見届けるっ」
黒死牟SIDE
私は七重の塔と赤い月を見上げ立っていた。今夜はやたらと月が大きく、月の光がやたらと眩しい
私は月を正面にススキが生えている小道を歩きだした
黒死牟「赤い月か…不吉だ…」
暫く進んで行くと、私は信じられぬものを見た
老いさばらえた弟の姿だった。美月から縁壱が生きている事を聞いたのは五十年余り前の事。流石に生きてはいないだろうと思っていた
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