第6章 平行世界
大幅な時の流れは変わらない。変わることは無い。歴史は変わらない。織田信長は本能寺で倒れ明智光秀は三日天下。その他諸々は変わっていない。
変わっているのはそう。私の歴史。そもそも幼少の頃に引っ越しも何も無かったのに、引っ越した挙句にお隣が本丸だなんて誰も思わない。
ぐったりと日当たりのいい本丸の縁側で寝そべりながら今後のことを考える。私はこの先、どうやって生きようか。
いずれあの家は出ていくだろうし。いつまでもこの関係をダラダラと続けてはいられない。どうしたらいいのか。
「はぁ……」
深くため息をついて起き上がり、特に意味もなく本丸内を徘徊し始める。考え事があるとすぐに徘徊してしまう。悪い癖だ。
風に乗って感じた血の臭い。初めてあの部屋を見つけた時と同じ臭いがした。あの部屋からじゃない何処かから。
無意識に足を其方に動かせば、大きな蔵があった。武家屋敷にはよくありそうな蔵が。
施錠されてないことをいいことに勝手に蔵の戸を開ければ、血の臭いが濃くなった。むせ返りそうになるくらい濃い。
「……乱藤四郎」
蔵の中を進んで見つけたのは赤く染った乱藤四郎の姿だった。意識はあるが返事もできないくらいにはボロボロにされている。
この本丸で見掛けたのは二回だけ。それも小学校の時だ。いつからここにいたんだろう。いつからこんなことになってたんだろう。
ぐっと唇を噛み締めて、乱ちゃんのすぐ隣に膝を着く。曇った乱ちゃんの目が私を見つめてる。
治って欲しいなんて私のエゴだ。傷ついてる方がいいのかもしれない。それが楽だって諦めてるかもしれない。けど私は乱ちゃんの花咲くような笑顔が見たい。
「乱ちゃん……」
私の願いの押し付け。どうか。どうか。この子が良く治りますようにと願いを込めた。もちろん何かが怒る訳じゃない。でも願うのはタダだ。
そっと傷がついてないけれど汚れてしまった頭を優しく撫でた。
その時、ふわっと桜の花の匂いがした。今は初夏で、桜の季節はとうに終わっている。なのになぜ。
ゆっくりと頭を撫でてから、鞄の中に入れっぱなしをタオルを取りにその場から離れた。
「……ふむ……」
途中見掛けた小烏丸が私の顔を見て何かを考えていたが、ろくなことにならない気がしてそのまま無視した。
私が蔵に戻ってきた時には乱ちゃんが起き上がって私を見つめていた。
