第3章 お隣さん 男士視点
甘ったりぃ女の喘ぐ声が耳に届いた。横目で場所を確認すれば、そこは石切丸の部屋だった。
今日はあいつか。哀れだな。
他人事のように心の中で呟いて部屋に戻る。あいつを送りに行って、暫くは家の近くにいた。
あいつがここまでで良いと言った所で別れて、遠目からあいつを見ていた。あいつの母親が出てきた瞬間、あいつはなんの理由もなく打たれた。
おれが見ていることに気付いているあいつは、一瞬だけおれに視線を寄越して目で制止た。慣れているように思えた。
「はぁ……」
特にこれといった物も置いてない質素な部屋に入り小さくため息を着く。体を預けるように布団に転がり天井を眺める。
変に外に出されることが多いとは思っていたし、本人は躾だと呟いていた。前世の記憶があるあいつは、恐らく前世でも同じように育ったのだろう。
家に送る。家に帰るとなると、目に光が宿っていないことが多かった。それこそ、放置部屋にいる陸奥守達のように。
「…………気分悪ぃ」
忌々しく呟いた声は誰かに聞かれることは無い。
助けることは出来ない。助けようとすればするほどに、相手が締められていく。よく分かっている。
陸奥守達で散々見てきた。否、見せつけられていた。
変な行動をすれば、隣の幼児を何振りかが気に入っている事がバレれば、放置部屋連中も、あいつも危ない。
放置部屋がいちばん酷い部屋だ。あれ以上、あそこに誰かを増やさないようにそれぞれが必死なのだ。
何振りかの先生を含む政府刀も、軽傷を負わされて放置されている。
なにか変に行動すれば、あいつにもきっと迷惑がかかってしまう。それなら逃げ道として話し相手になるくらいしか方法がねぇ。
「情けねぇな……」
言霊とは使い方を間違えれば凶器だ。おれ達はそれで支配されている。陸奥守達を、今のおれ達を救うことは出来ない。
あいつと話すことで救われているのは、おれだけじゃないはずだ。現に、石切丸の目が羨ましげに揺れているようにも見えた。
あいつが審神者なら救われたのかもしれない。なんて、見目がガキのあいつに背負わせることじゃねぇな。
「……見た目詐欺」
思わず溢れた本音は、いつか本人に伝えそうだ。噛み付くように反発してくる大人のような、否、大人なガキを思い出して小さく口角を上げた。
近い内にまた絡みに行くか。