第3章 お隣さん 男士視点
耳に入ったのは短めな音。投げ捨てられたような、そんな音。
生憎の雨で、泥だらけになっている地面に目を配りながら、音の正体をみればあいつがいた。体の半分を泥で汚された姿で。
目が合った。大きく音を立てる雨の中、青い瞳がおれを見つめる。そういえば、この姿で会うのは初めてか。
「何してんだ」
「八つ当たりされ中」
地面を叩く雨の音が喧しい。滝のような雨とはこの事か。目の前にいる女の声が聞こえづらい。
問答無用で抱き上げて本丸の方へと向かえば、慌てたような気配を感じる。遠慮癖がまた出ている。
冷たい雨が体温を奪っているのか、片腕で抱き上げた女の体は酷く冷たかった。玄関ドアを雑に開けて、近くにいた篭手切江にびしょ濡れの女を預ける。
おろおろと困ったような顔で、申し訳なさそうな顔で、おれと篭手切江を見つめる女に小さく息を吐きかけた。
「幼児誘拐か?」
「ちげーよ。隣んとこのガキだ。放り出されてんのを拾った」
「……それは……」
「着るもんと拭くもん寄越せタコ」
おれが風邪をひくことは無いが、人間は脆い。ましてやガキなら特にだ。気にしなくてもいいと言いたげな女は、自分の身目を思い出したのか、それともこの本丸が汚れることに躊躇したのか大人しく縮こまった。
猫かぶりではなく、ただの人見知りと遠慮癖。それらが相まってガキの見目のくせして、やけに大人びているように見られる。
篭手切江が素早く用意したタオルで体を拭くために、衣服を脱ぎ捨てた。このまま風呂に入っちまうか。
「おい」
「?」
「おまえ風呂は」
篭手切江がいるからか変にしおらしくて気持ち悪ぃ。首を横にだけ振っている女を横目に、雑にタオルで髪を拭けば篭手切江が吠えている。
そいつを頼むとだけ告げて衣服を持って風呂に向かう。今日は珍しく出陣があったのだ。先日、この本丸の審神者が帰ってきた時に頼まれた。
別に対した場所でもなければ、傷がつく訳でもない。ただ、嫌な予感として資源を取ってこいと命じられたのだ。軽傷組の誰かを閨に命じるつもりかと悟ったのはおれだけじゃ無いはずだ。
「……はぁ」
近々また帰ってくるであろう審神者に深い溜息が溢れる。
余計なことを考えてないで、さっさと風呂に入って縮こまり中のあいつを助けに行くか。