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短編集

第4章 美風藍【うたプリ】


「消えないで」
「あやめ?」

 藍が好き。だいすき。
 私に触れて、溶けて消えてしまうなんて、そんなのは嫌だ。それなら私は、藍に触れなければ良いの……?

 伸ばしかけた右手を、そっと下ろしてもこもこの部屋着をぎゅっと掴む。
 白くなるほどキツく握りしめた手を、私よりほんの少しだけ冷たい手のひらが包んだ。

「そんなに握り込んだら、爪の痕が残るよ」
「……藍、私に触れても、藍は消えない?」
「当たり前でしょ。消えると思って、手下ろしたの?」
「……雪は、私の指先で触ったら、溶けて消えるから」
「ボクは雪じゃないから大丈夫。手が冷たいなら、少し温度あげようか」
「いい、このままがいい。藍がいるの、感じるから」
「ねえ、あやめ」
「ん」
「あやめは春みたいだね」
「……なんで?」

 春……?

「前に話してくれたでしょ、雪が溶けたら春になるんだって。ボクが雪なら、あやめに触れて、溶けたら、春になるの?」
「……っ」
「もし、そうだとしたら、ボクは雪でも良いって思ったんだけど。あやめに溶かしてもらうから」
「……」
「あやめ、照れてる?」
「……藍が急に、そんなこと言うから」
「ねえ、あやめ。ほら、ボクに触れて」
「やだ……」
「なんで」
「……やだ」
「いいよ、ボクから触れるから」
「っ」

 ぐっと手を引かれ、後頭部に回った大きな手のひらに、さらに引き寄せられる。目の前に広がるのは、もふもふの、藍の部屋着。藍の、匂い。
 顔を埋めて、深く息を吸って、藍の背中に腕を回して。変態みたいだ、私。
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