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短編集

第4章 美風藍【うたプリ】


 やけに寒い日とやけに暖かい日との気温の差で、風邪を引きかけた二月末。なんとか持ち直して、変わらず仕事にも出ているし、休みの日には夜更かししたりもしている今日この頃。季節は冬と春のちょうど狭間。
 藍は、そんな季節の移ろいの中に、ふわりと降り立った雪のような存在だと思う。なんて、クサイことを言っても柄じゃないか。
 ただ本当に、藍は雪のようだと私は思う。ふわりと優しいのに、あっという間に溶けていく、儚い雪。藍の存在は、そんな雪に似ていた。

「ねえ、ボクが雪みたい、なんて冗談でしょ?」
「……冗談だと思う?」
「……本気みたいだね。ボクってそんなに冷たい?」
「そういう意味で言ってるんじゃないんだけど」
「だってあやめ、雪はあまり好きじゃないでしょ。いつも言ってるじゃない、降らなきゃいいって」
「ああ、あれは、実家の惨状を思い出すから……」

 秋田の実家は、雪下ろしも雪かきも死ぬほど辛かった。雪降った、わーい、なんて言える降り方じゃなかった。猛吹雪、ぼた雪、路面凍結、さらに積雪、そして雪壁。どれも良い思い出とは言えない。
 ただ、ふわふわ、と舞う東京の雪は、綺麗だなと思うことがある。降っては、何かに当たって消え、積もることなどほとんどない。手のひらに降りてきたと思ったら、冷え性の私の指先でも簡単に溶けてしまう儚い雪。

 藍の存在が、消えそうだって言いたいわけじゃない。ただ、ふわりと優しく笑う顔や、ふとしたときに見せる儚い笑顔。それがどうしても、雪のようで、その一瞬を逃したら、二度とみることができなくなりそうで。
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