第2章 ある日の雨乾堂にて
──浮竹十四郎──
布団の中で心地良さそうに眠っているのは俺の補佐をやっている氷室水月。俺や京楽とは霊術院で同じ時期を共にした仲だ。所謂、同期と言われる間柄。
俺に変わって虚退治のために尸魂界や、魂魄の保護・成仏のために現世を行ったり来たりを繰り返している。会うのも数日ぶりだ。
今回はそこまで困難ではなかったのか怪我することなく帰ってきたが報告をしている間、眠そうな雰囲気が漂ってきたためそのまま布団に寝かせればあっという間に眠りについた。
布団に潜り込んで寝るその姿は、年離れた妹にそっくりだ。起きたら京楽からもらったお菓子でも出してお茶にしよう。
いつもは取りにきてもらっているが、今日は体調が良いため海燕に渡す書類を持っていくと同時に水月からの報告も伝えておくか。
そうして少しの間、雨乾堂を離れて海燕の所で用を済ませ戻ると、入口で一人の隊士が腰を抜かしている。確か彼は昨年入隊したばかりだったような。
「お疲れさま」と声をかけると雨乾堂の中を指差しながらこちらを見てくる。隊士と指差す方に居る(寝ている)人物と手に持った書類でなんとなく予想ができた。
水月を見るのが初めてなのだろう。ここ数十年で新入隊士のあるあるになりつつある。
大方、見たことのない人物が俺の布団で寝ているから不審人物等と勘違いしているのであろう。
本当は今直ぐに紹介してやりたいが、水月の「眠たい寝かせろ」と殺気に近い圧を感じているので、また今度、新人隊士を集めて紹介した方がいいだろう。
書類を受け取り「失礼しました」と忙しそうに戻っていく隊士。姿が完全に見えなくなるまで見送ると、半蓑虫と化している水月を見る。
「そんなに警戒しなくても大丈夫。彼は入隊一年余りの新人だよ」
落ち着かせるように頭を撫でながら言うと、段々と警戒心が薄れていくのが分かる。
そしてまた、眠りについた。
受け取った書類に目を通すべく座卓の前へ動く。確認しながら横を見ると、気持ち良さそうに眠る水月の枕元に白い毛玉が転がっているのが目に入った。