第6章 相反☩そうはん☩感情
『ヴァリス様!』
タッと彼女の肩に乗っていたマリスが肩から飛び降りて、その野花から彼女を守るように立ち塞がる。
『その花は毒草です。お気をつけください』
ヴァリスは瞠目した。
只の猫と思っていたヴァリスが口を効けたことに驚いたが、
それよりも彼がヴァリスを守ろうとしてくれたことにはもっと驚いた。
「おまえは、私が嫌いじゃないの?」
胸の奥に宿っていた、蟠りのような問いかけを恐る恐る音とする。
マリスはそのガーネットのような紅いあかい瞳を不意を突かれたかのように一瞬だけゆらめかせ、
そして再度彼女にすり寄って口をひらいた。
『嫌い? そんな訳がありません』
「これからも私と遊んでくれる?」
指を伸ばして黒曜の毛並みを撫で、その喉元を擽る。
ごろごと喉を鳴らすそのさまが何よりの答えで、ヴァリスは微笑んだのだった————。
(あの日は、本当に嬉しかった。やっと一人じゃないと実感できたの)
「主様こそ、俺の憧れだった、死んだ俺の姉さんに似ていらっしゃいます」
あの日へと遡りかける思考を断ち切ったのは、だし抜けに呟かれたフェネスの一言だった。
「フェネスの………お姉さん?」
思いがけない一言にヴァリスが彼を見上げる。
フェネスは穏やかな瞳をして静かに語りかけてきた。
「はい。強くて、優しかった、小さい頃から俺のことを守ってくれた姉さんに」
フェネスは微笑んだ。
けれどその瞳には憧憬を伴った自責の感情が滲んでいて、
ヴァリスは何も言わずに胸の前で左手の手の甲に、
右手の指を重ねあわせるようにして握り込んでいた彼の手に、
そっと自分の指を重ねあわせた。