第14章 初恋の君と (角名倫太郎)
着替えを終えて体育館に入ると稲荷崎名物双子の喧嘩が勃発していた。すかさず駆け寄るちゃんを追いかけて俺は動画を回す。
『こらっ』
「先に突っかかってきたんサムやでちゃん!」
治の胸ぐらをつかんで揺さぶる侑の手にそっと触れて優しく2人を引き剥がす彼女。
『侑くんの大切な手が傷つくかもしれないからこんなことしちゃダメだよ。』
「だってサムが…!」
『私たちは侑くんがセッターじゃなきゃ困る。だから怪我するようなことして欲しくないよ。』
「う…っすまんかった…です。」
頭に血のぼった侑を一瞬で落ち着かせた…!そんなことできるの北さん以外見たことないんだけど。
『治くんもおいで』
「俺悪くない…」
『うん、何があったか分からないけど治くんがいるから侑くんは100パーセントが出せるんだよ。そんな相手がいるって当たり前じゃないよ。だから2人には仲良くして欲しい…。私の勝手なわがままだけど。』
「ん…ごめん、なさい。」
治まで手懐けた…さすがちゃん。圧ゼロで制圧すんの強すぎ女神?
「なんや喧嘩か?」
『あ、北さんお疲れ様です!喧嘩なんてしてないですよ!ちょっとじゃれてたたけです、お騒がせしてすみません。』
「そんならええけど。あんまさん困らせたらあかんよ。」
「「っす…」」
北さんの目も誤魔化してくれんのかよ。
だいたいはバレてるぽいけどそれ以上は踏み込んでこないし北さんに怯える日々に終わりが来たかもしれない。
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「さんちょっとええか」
部活終わり北さんに呼び出されたちゃんを待つ俺らの話題はもちろん彼女のこと。
「北さんが来る前にちゃんが止めてくれて良かったね」
「ほんっまに危なかったわ。しかも言い方優しくて圧ないのがええわ。」
「あんな優しく止められたら何でも言う事聞いてまうわ。気付いたら謝ってたもんな。」
「北さん以外に双子の喧嘩止められる人おんねやなーって感動したわ!」
「それね。あー俺もちゃんに怒られたい」
「限界界隈の奴おるやん」
だってあんなふうに優しく手握られて"だめだよ"とか言われたいでしかないだろ。え、俺変なこと言ってる?