第5章 近付いた距離から変化は訪れる
木箱を台所に置く音に気が付いた眞秀がネギを切りながら声を掛ける
眞秀
「野菜持ってきてくれたのか?重かっただ……えっ…大将!?」
結莉乃だと思って掛けていた眞秀の声は、顔を上げて見えた人物だった事により続かなかった。
眞秀
「ど、どうしたんすか!朝から部屋の外に居るなんて…」
胤晴
「少しな」
眞秀
「野菜…持ってきてくれたんすか?」
胤晴
「嗚呼。彼女が困っていたからな」
その声に胤晴の後ろにいた結莉乃は苦笑する。眞秀は驚いた様だったが、胤晴が朝から部屋を出ている事や纏う空気が柔らかくなった事が嬉しい様で表情が優しかった。
朝餉の準備を終え結莉乃と眞秀が広間に向かうと、また驚く光景が広がっていた。それは、胤晴が広間に居たのだ
その変化に全員が驚いていたが…やはり、凪や慎太達の表情は安堵した様な嬉しそうな表情を浮かべていた
朝餉を終えた結莉乃が一人で自室へ向かっている途中、目の前に何かが立ち塞がった。思わず脚を止めて見上げると長い睫毛に囲まれた翡翠色の瞳と目が合った
結莉乃
(えっと、この人確か…凄いモテるけど、腹黒だったような…?)
だが、そこまでしっかりと把握していない結莉乃は後半の“腹黒”に関しては自信がなかった。
何故、彼が目の前に現れたのか分からなくて結莉乃は警戒する。肩甲骨より少し長い珊瑚色の髪を揺らして彼は、無駄が無い鮮やかな動きで結莉乃を壁と自分で閉じ込める
結莉乃
「な、何ですか…っ」
急な出来事に結莉乃の身体は硬直して彼を見上げる事しか出来なかった。だが、その問いには答えず…ゆっくりと二人の距離が縮まっていき
結莉乃
「えぇ!?何か近く無いですか!?」
「しっ…黙って」
それには甘い笑みを浮かべながら優しい囁きが返ってきた。尚も近付いてくる顔に結莉乃は戸惑うばかりで