第5章 近付いた距離から変化は訪れる
自身の前に立った結莉乃を見て天音は持っていた木刀を彼女へ軽く投げて渡す。結莉乃は突然こ事に慌てながらも何とか受け取る事が出来た。
天音
「…行くぞ」
結莉乃
「はい!」
結莉乃が返事をするのと同時に天音は床を蹴り、勢い良く彼女との間合いを詰める
結莉乃
「……っ…!」
避けれないと判断した結莉乃は振り上げられた木刀を受け止めようと、持っている木刀を横に構える。が…
結莉乃
「うっ…」
振り下ろされる前に訪れた脇腹への痛み。気が付けば結莉乃は道場の壁にぶつかっていた。天音は結莉乃が受け止める格好をとった為、素早く攻撃を変え彼女の脇腹へ蹴りを入れたのだった
天音
「攻撃がそれだけだと判断すンじゃねェ」
結莉乃
「は、はい…っ」
肩に木刀を乗せた天音から告げられる掠れた低い声に、噎せながら立ち上がった結莉乃は、しっかりと頷く。
天音は少し驚いた。
壁にぶつかる程の攻撃を受ければ痛みで鍛錬したいなんて言わないだろうと、意思の強かった目だって無くなるだろうと…そう思っていたから立ち上がって返事をした結莉乃に。
それから数分…当然だが結莉乃が天音の身体に触れる事は出来ず、増えるのは結莉乃の身体への痛みだけだった。
天音
「おい」
結莉乃
「はぁ…はぁ、っ…はい…」
額の汗を手の甲で拭っている結莉乃へ天音は戸惑いを含ませた瞳を向ける
天音
「何で、ンな頑張ンだよ」
結莉乃
「…え?前に言った通りですよ」
天音
「守ってもらわねェ様にってやつか」
結莉乃
「はい。人を守りながら戦うのは大変だと感じたので、少しでも自分の身は自分で守りたい。それから…次に異形と会っても迷わない覚悟を持ちたいんです。微力でも皆の役に立ちたいんです」
あの時とブレない強い瞳で見詰められて、天音はまた戸惑う。どうしてここまでして頑張れるのか…非力で戦闘経験も無い、そして女。
彼女の願いは自分の為の様でもあり、他人の事を考えている内容だ…他人の事を考えて何故こんなに頑張れるのか、天音には分からなかった