第5章 近付いた距離から変化は訪れる
戸惑いながらも笑みを見せてくれている画面の中の眞秀を見て、結莉乃の口角は上がった。
結莉乃
(ゲーム中のイベントってあるのかな…。でも、出るわけないのかな?私が居るのはイレギュラーな事だと思うし…後日って事になったけど、眞秀くんと甘味処に行くのはイベントだったよなぁ。あのイベント無しになってないと良いけど…約束したし、大丈夫だよね?)
壁に背を預けて甘味処に行けるかどうかを考えている最中に気が付けば結莉乃は眠ってしまっていた。
時は戻り結莉乃が胤晴の部屋から去ってすぐの事…
胤晴は肘掛に頬杖をつきながら左手首にある薄水色の紐を見下ろした。かつて自身が生涯を共にしようとしていた女性の髪に留まっていた紐は、今は胤晴の手首に留まっていた。
胤晴
「君のように怖いもの知らずだが、君とは違う。……気付いたら笑ってしまっていた…彼女は不思議だな」
一つ息を吐き出すと僅かに眉を下げる。
彼女の面影を探している訳では無い、ただそう感じただけだった。
普段、凛とした表情をしている胤晴の顔は切なげで…心が少しだけざわつき始めた自身に戸惑っている様にも見えた。
翌日─…
いつ鍛錬に付き合ってくれるのか分からなかった結莉乃は、天音の姿があるか確認する様に道場を覗いた
天音
「遅せェぞ」
結莉乃
「…っ…すみません!」
既に道場には天音が居り、床に腕を組んで座っていた。結莉乃は鋭い視線を向けられ慌てて道場へ脚を踏み入れ、覗いて良かったと安心したのだった。
天音
「教える前に、まずはアンタの実力を見る」
結莉乃
「実力…でも」
天音
「一応、手加減はする」
天音の言葉に結莉乃は安堵の息を零した。本気で来られたら自分なんて一瞬で捻り潰されてしまう。いや、本気じゃなくても恐らく瞬殺だろう。
それでも、怯んでいる場合では無く今よりも向上できるチャンスだと結莉乃は自分を鼓舞し立ち上がった天音の前に立つ