第5章 近付いた距離から変化は訪れる
結莉乃が想像していたよりも胤晴は話してくれるんだと、心に出来た余裕はそう考えられる隙間を与えた。それから、彼がかけた言葉に対して結莉乃はゆっくりと頷いた
結莉乃
「ありがとうございます」
胤晴
「嗚呼」
彼からの話が終わると結莉乃はお辞儀をして胤晴の部屋から出て、空気を吸い込み口角を上げる
結莉乃
(もっと怖い人かと思ってた…けど、凄く優しい人なんだ。やっぱりちゃんと話してみなきゃ分からない)
「………」
そう思いながら借りている自室へと脚を向けた結莉乃へ、一つの暗い視線が送られていた。だが、その事に気付かない結莉乃は清々しい思いのまま歩き出す
眞秀
「お、結莉乃!」
結莉乃
「眞秀くん」
角を曲がった所で眞秀と出会った。眞秀は目の前に現れた結莉乃を見て目を丸くする
眞秀
「異形と戦ったって聞いた。大丈夫だったか?」
結莉乃
「怖くて身体、動かなかったけど…何とか」
眞秀
「そうか…良かった。怪我は?」
結莉乃
「背中ぶつけて痛いくらい。でも、凄く元気だよ!」
両腕を曲げて見せる結莉乃を見て眞秀から漸く安堵の表情が浮かんだ。
結莉乃
「浦風さんに稽古頼んだの。…眞秀くんも見てくれる?」
眞秀
「嗚呼、当たり前だろ」
結莉乃
「ありがとう」
頼もしい笑みを見せる眞秀と別れ結莉乃は自室へ戻り、息を吐き出しながら畳に腰を下ろす
結莉乃
「まだ信じられないな…私が刀を持つ為に鍛錬したり、本当に刀を持って戦ったなんて…。しかも、治癒できるとか…」
改めて口にすると非現実過ぎて頭が混乱しそうになる。だが、いくら非現実的とはいえ、今の彼女にはこれが日常なのだ。
結莉乃は棚に入れていた鞄からスマート端末を取り出し、此処に来た翌朝…証明する為に撮った眞秀の写真を見る