第5章 近付いた距離から変化は訪れる
胤晴
「新しい場所が見付かるまで、そう言ったのを覚えているか」
結莉乃
「はい。…でも、もう少し待って下さい…!」
胤晴
「いや。この屋敷に君を招こう…此処に居れば良い」
結莉乃
「え…良いんですか?」
胤晴
「嗚呼」
結莉乃
「ありがとうございます…!」
彼の言葉が嬉しくて結莉乃は、少し下がり正座をし直して頭を下げる
胤晴
「それから…すまなかった」
結莉乃
「え…」
結莉乃は謝罪の意味が分からず、下げていた頭をゆっくりと上げる。するとそこには彼女と同じ様に頭を下げた鬼の王の姿があった
結莉乃
「え、ちょっ…何で胤晴さんが頭下げてるんですか!?」
胤晴
「俺は女の君が刀を振って異形を倒す事など出来ないと、そう思っていた。だが違った…君は初陣にして立派に刀を振っていたと、慎太から聞いた」
結莉乃
「慎太くんから…」
胤晴
「嗚呼。木に打ち付けられても自身を奮い立たせる姿が強かったと…背中は大丈夫か?」
結莉乃は驚いた。慎太がまさか自分の事を強いと言ってくれるなんて思っていなかったからだ。
結莉乃
「痛いですけど、大丈夫です!それから…謝らないで下さい。私は自分の世界でこんな経験をした事がありません。だから、自分でも異形を倒す事なんて出来ないって思っていましたから…」
胤晴
「そうか…それなのに刀を持つ事を決め、成し遂げた事は誇って良いと俺は思う」
結莉乃
「そんな…」
胤晴
「向上心を持つのは良い事だ。だが、その前に初陣を乗り切った自身を褒めてやれ」
結莉乃
「あ…」
それは結莉乃が目が覚めてから一度もしていない事だった。これじゃ駄目だと、向上心という名の焦りばかりを持っていた。胤晴に言われて初めて気付いたそれに、肩から力が抜けた様な気がした