第5章 近付いた距離から変化は訪れる
黙って結莉乃の話を聞いていた天音が大きく息を吐き出してから結莉乃を見る
天音
「今のその目が本物だって証明できてねェと判断したら即辞めるからな」
結莉乃
「目…?」
天音
「じゃーな」
結莉乃
「あ、ちょっと…!」
結莉乃の疑問に答える事無く背を向けて天音は、ひらひらと手を振って去ってしまった。
結莉乃
(その目って…どんな目?)
慎太
「意志を感じられる強い目、って事だと思うぞ」
聞こえてきた声に結莉乃が振り向くと、そこには慎太が立っていた
結莉乃
「慎太くん!…怪我、大丈夫?」
慎太
「嗚呼。あんたのお陰で駄目になったのは着物だけだ。…ありがとう、助けてくれて」
結莉乃
「そんな…でも、運んでもらっちゃったみたいだし…私こそありがとう」
互いに礼を述べあってから目が合うと、二人は小さく笑を零した。
凪
「此処にいらっしゃいましたか」
何かを探すように首を動かしていた凪は、結莉乃を見付けて止まると彼女へゆっくりと近付いてきた
凪
「王がお呼びです」
結莉乃
「え、私を…ですか?」
凪
「ええ。…慎太、彼女をお借りしても?」
慎太
「嗚呼」
凪
「では、参りましょう」
結莉乃
「は、はい」
慎太に挨拶をしてから凪の後ろをついて行く。
何かやらかしてしまったのだろうか…なんて結莉乃は凪の後ろで揺れる綺麗な黒髪を見ながら、頭をフル回転させる。だが、思い当たる事が無くて心臓が破裂しそうだった
凪
「安心なさい。お叱りを受ける事はありませんよ」
結莉乃
「え?」
凪
「自分が何かしてしまったのでは、そう考えておられたのでは?」
結莉乃
「え、はい…そうです。何で分かったんですか…」
凪
「貴女が分かりやすいからです」
前を歩いていた凪が脚を止めて振り返り優しく言葉を掛けてくれた事により、驚いたものの結莉乃の気持ちは落ち着いた。
初めて部屋へ案内した時とは打って変わって柔らかい声を結莉乃へ凪はかけるようになっていた