• テキストサイズ

—L'Oiseau Bleu— 青い鳥

第21章 狂気


.


「………」

「………」


部屋に上がったものの

智は俺にコーヒーを差しだすと、ソファーにすわって黙り込んでしまった


ただ黙って、もじもじと指を弄っている


(自分で呼んでおいて、放置かよ)


「…話って?」


痺れを切らせた俺は、すっかり冷たくなった、飲みたくもないコーヒーを啜て言った

智は一瞬指を弄るのを止めて、俺を見ると、また俯いて綺麗な指を弄んだ


「……もう……終わりにしよう」

「………」


一番聞きたくなかった台詞


「…何だ、急に」


(…急なんかじゃない…解ってる…)


智は俯いて、相変わらず自分の指先を弄んでいる


…こんな時でも、あの指が好きだな、と思う

あの指が、俺に触れる感覚を思い出す


(俺の…俺だけの…)


「…他に男が出来たんだろう?」


智の身体がビクリと動く


「浮気くらい許してやる。お前を放ったらかした、俺にも責任があるしな」


智は黙って俺の様子を伺っている


「…だが、別れない」


—カチャン

静寂の中、カップを置く音がやけに響く


智が、重い口を開いた


「…きっかけは、そうだったかもしれない…でも…僕たち、とっくに壊れてたんだ」

「……」

「お互いに…ホントは解ってて…気付かないフリして…

…壊れたもの抱えて…必死に繋ぎ合わそうとしてた」

「…智」

「…そんな時…見つけてくれたんだ…

…彼が…壊れかかった僕を…見つけて…

…優しく包んでくれた…」


(…ヤメロ…俺ノ前デ…他ノ男ノ話ヲスルナ…)


「…ごめん…潤 くん…勝手な事言ってるのは解ってる…けど…」


(ナゼダ…?俺ハ、コンナニ愛シテイルノニ)


心臓が、信じられない速さで脈打つ

体中が痺れて、凍りついた様に冷たい


(ヤメテクレ…キキタクナイ)


「…ホントにごめん…でも……もう、戻れないんだ…

…別れて欲しい…

…僕…僕は…」


(──ヤメロ)


「僕は、彼のこと、本気で……」


(ヤメテクレ————!!)


.


遠くで、カップの割れる音が聞こえた気がした


.
/ 88ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp