第17章 始まりの過去2
.
「残念だけど仕方ない」
店長が溜め息まじりに言った
“大学が今年で卒業だから絵に専念したい”
僕はもっともらしい理由をつけて、お店を辞める了承を得た
「はぁ、大野君辞めたら、売り上げガタ落ちだよ…」
(…その前に、店長の肩がガタ落ち…(汗))
「…急ですいません。今月いっぱいって事でお願いします」
「…わかったよ…はあぁ…じゃ、今月いっぱいは宜しくねぇ…」
(…店長……ごめんね(汗))
余りのヘコミように、店長が、ちょっと可哀想になってしまった…
.
.
「…大野君、お店辞めちゃうって、ホント…?」
「うん、大学が色々忙しくって」
「…そうなんだ…辞めちゃうんだ……そうなんだ……」
“その人”は
僕がバイトに入ってから、ずっと僕の事を指名していたお客さんで
三十チョイ過ぎの、体育会系なゴツイ体に似合わず、暗い感じのオジサンだった
店長に辞めることを告げた日
何処から情報を得たんだか、僕が辞めるコトを聞きつけて僕にコトの真偽を確かめると
残念そうに、暗いため息をついた
「………じゃあ、もう君に会えなくなっちゃうんだね………」
「んー、でもお店にはきてあげてね、店長可哀想だから」
「………君が居なければ、意味が無い」
「……」
“その人”の眼が暗い光を放っている様で……怖かった
「そんな事言わないでさ、きっと僕なんかより、もっとイイ子がはいるよ!ね?」
僕はわざと明るく言った
「……君が居なければ…意味が無い……君じゃなければ…意味が無い……」
“その人”は、僕の言ったことが聞こえなかったのか
俯きながら、ぶつぶつと同じ事を繰り返して言っていた
.