第2章 出会い
紅覇side
「盗っ人猫は出ていきやがれ!!」
「……?」
隣国のスラム街の一角。
罵声は、そこから聞こえた。
「紅覇様、そのような所にお入りになられますと、お召し物が……」
付き人の制止も聞かず、足を踏み入れる。
道の真ん中で、ボロボロの少女が倒れていた。
咄嗟に受け身を取りきれなかったのだろう、体を庇おうとしたらしい右腕が変な方向に曲がっている。
腰まで伸ばしっぱなしの黒髪は埃にまみれ、もともと小柄であろう体はやせ細って簡単に折れそうだ。
「おーい、お前」
気づけば声をかけていた。
何に惹かれたのか、わからない。
なんで助けてやろうと思ったのか、わからない。
ただ、なんとかしたいと思った。
「おーきーろーって。じゃーまーだー」
頬を叩いてみるが、反応無し。
いや、少し瞼が動いたような……?
「紅覇様……、どうしたのです、その子は……!」
追いかけてきた付き人が驚いて後ずさる。
「見りゃわかるでしょー?」
そっと捲った袖から見えた少女の腕は、たくさんの傷痕で埋め尽くされていた。
「うっわー、めっちゃ怪我してんじゃん。ねーねー、これ炎兄なら治せるよねー?」
「造作ないかとは思いますが、しかし……」
嫌な顔を見せる付き人。
まぁ、仕方ないかなぁ。
僕がこういう「強くもない」「普通の」子を拾うなんて珍しいもんねぇ。
そっと、少女の首に手を当ててみる。
………トク……………………トク……
少女の音は、力無く――
「やっべー、脈弱くなってきてる。しぶってる場合じゃないよ!」
一刻も早く手当をしなければ、この子は……!
そっと彼女を抱き上げる僕を、慌てて付き人が手伝った。