第3章 煌帝国
「あ、ちょ……っ」
「そういえば、決めたよぉ。お前の名前」
「え……?」
「お前は、『リウ』だよぉ。凛々しいの凛に羽って書くのー。いいでしょー?」
りう、凛羽……
「ボクの、名前……?」
涙が止まったボクを寝台に乗せて、紅覇は笑う。
「お前、目線が凛としてるし。最初に持ち上げたとき『軽いな』って思ってねぇ。羽みたいだなぁって。だからお前は『凛羽』だよ」
羽は言い過ぎだろうと思ったが、紅覇が自分のために考えてくれていたのだと思うと、嬉しかった。
(初めて、名前を呼ばれた……)
「じゃあ、ごはん持ってくるから」
「紅覇」
思わず呼び止めていた。
「なぁに?」
「あ、あのね……」
首を傾げてボクの言葉を待つ紅覇。
二人の間を、たくさんの白い蝶のようなものが舞っていた。
白い流れの向こうのあどけない顔に、胸の奥が疼いたような気がする。
「あの……ありが、とう……っ」
名前をつけてくれてありがとう。
助けてくれてありがとう。
手を差し伸べてくれてありがとう。
たくさんの気持ちを込めて、伝えた。
人に頭を下げた。
初めて。
「うん、どーいたしましてぇ」
笑って、紅覇は出て行った。
一人、膝を抱え込む。
紅覇の笑顔が、目に焼き付いて離れない。
なんだか、不思議な気持ちになる。
これがどういう気持ちなのかはわからない。
だけど、悪いことではないはずだ。
「……紅覇……」
何故か、笑みが零れた。
自分でも気持ち悪いなぁと思いながら、
彼を待つ。