第9章 料理人
宿「せっかく雇った腕の良い料理人だ。冷めた湯に入って風邪をひかれても困る」
と言った。
宿「俺が火を見てやる。早く入れ」
「……良いのでしょうか? 私はただの雇われの身。冷めた湯でも風呂に入れていただけるだけで十分なのに」
宿儺を見て そう言う裏梅は、今までの薬舗との差に驚いているようだった。
宿「お前は料理人兼 あすか の世話人として雇ったのだぞ?
お前が倒れたりされては困るからなぁ」
それだけ言い、宿儺は「早く風呂に入れ」と言った。
ちゃぽんー。
宿儺に風呂の火を見てもらっていると思うと早く温まって上がらねば、と思う裏梅に、宿儺が居ると思われる外の火の方から声がした。
『裏梅くん、湯加減どぅ??』
「はい、ちょうど良いです」
あすか にそう答えると、宿儺の声もした。
宿「コラ あすか 、家の中に入っていろ。風邪をひくぞ」
『1人で家に居ても寂しいの』
宿「まったく…。腹は冷やすなよ」
壁で 宿儺と あすか の様子は見えないが、裏梅は独り言のように呟いた。
「あったかい……」
翌朝。
リズミカルな包丁の音と、お味噌汁のいい匂いで宿儺は目を覚ました。
あすか を起こさないように、静かに台所へ向かうと裏梅が料理を作っていた。
宿「早いな」
突然声をかけられた裏梅は、一瞬驚いたように両肩をビクゥ、としたが冷静を装いながら「おはようございます」と宿儺に言った。
その様子を見た宿儺は、ケヒヒヒ、と老婆のように笑った。