第3章 第3章希望の欠片
失念していた。
これまでは外に営業に出かけることはあっても一日中店を空けることはなかった。
思った以上にTRIGGERのプロデュースはハードで時間を拘束されていた事もあり、夜と週末しか顔を出せなかった。
彼女に言われてようやく気付くなんて、有利達は噂を上手くシャットアウトしていたのか。
「マスター」
「皆まで言うな、解っている」
私の失態だ。
「お客様に不安を抱かせるとはなんたる失態、何たる未熟」
二足の草鞋ぐらいこなして見せると思ったが店に迷惑をかけるなど、本末転倒であるが、八乙女プロダクションとコネクションを持つ事は必要だった。
現在、店で働く見習いフットマンや見習い執事達の道を開く為にも必要だった。
「マスターが若い彼等の将来の選択肢を広げようとしているのは存じております」
「司も有利の味方か…」
「私達はマスターの味方です」
どの口を言うのか。
だったらもっと早く教えてくれてもいいじゃないか!
「マスターが我ら使用人一同に愛を持って接してくださったいるのを皆知っているからこそです」
「別に…」
この店を任された時から覚悟をしていた。
使用人達は皆、事情を抱えた子達が多かったからこそ私は守ると決めた。
特に成人もしてない若い子達は私にとっては子供同然だった。
「マスター、我らはマスターの為にあります。そして願いは貴女の幸福です。千早様として貴方と聖様としての貴女、どちらも我らの主なのですから」
そういわれると痛いな。
私は既に男装し、男になろうと思ったのに。
女としての幸せを捨てるなと言われると胸が痛かった。