第1章 プロローグ
食事も終わり満足されたようで安堵した。
「悪くないサービスだった」
「ありがとうございます」
強面の方と思ったけど、悪い人ではなさそうだ。
「つかぬことを聞くが、この店のプロデュースは誰だ」
「私です」
「では先ほどの曲は」
「私と執事達でアレンジしたものです」
「ほぉ…」
何だろう?
品定めをするような目で見られる。
「女でありながら見事なまで化けたか…しかもあの曲は桜春樹に似ている。こんな所に隠れていたかSARA」
「なっ…」
「社長!SARAって…あの」
「ああ、アイドルユニットで作詞に関しては右に出る者がいないとも言われている。零を超える逸材とまで呼ばれるも、グループは解散した。その後行方知れずとなっていたが…」
まずい、私の過去を持ち出すなんて。
「私に何をさせようと…」
「マスターを無理矢理芸能界に連れ戻す気ですか」
有利が私を庇おうとするも。
「消えたアイドルに興味はない。私が欲しいのは君の音楽だ」
「はい?」
「引き受けてくれるなら報酬は払おう。それなりの礼はする」
「いえ…あの」
「音楽に未練はないのか?君はまだ音楽に未練がないはずはない…」
痛い所を突いてくる。
私は未だに音楽に未練があるけど…でも。
「私はこの執事喫茶のオーナーです。先代よりも任されたこの店を守る責任があります」
「別に執事を辞めろとは言ってない」
「は?」
ますます訳が解らなかった。
私をスカウトするつもりじゃないのだろうか。
そう思ったら、意外な方法で交渉して来た。
「私が欲しいのは曲だ。消えたアイドルに興味はない」
「はっ…はぁ」
「マスター!さりげなく貶されているんですよ」
うんそれは解る。
でも目の前に人は私の曲が欲しいと言うだけで私を表舞台に出す気はないようだ。
「あくまで私は店を優先します」
「いいだろう。ただし結果がすべてだ」
「ええ、その代わり報酬はいかほどに?」
「アンタ、結構ちゃっかりしているわね」
実は言うと、最近は店の老朽化が進んでいた。
メンテナスはしているけど、改築するにも費用がかさむのだ。
それに楽器だってお古だし。
「これでどうだ」
「安いです」
「なんだと!」
「これぐらいは当然です」
この際交渉してやる。