第3章 第3章希望の欠片
到着したのはOceanの本社。
海の近くにある小さな研究所で、大手の化粧品会社の本社とは到底思言えない。
「ここ…本当にOceanの本社?どうみても」
「そう、どう見ても見えないでしょ?けれどここが本社。そしてもうすぐ船が戻って来ます」
「え?」
漁師の船が戻ってきて、白衣や繋ぎの服を着た男性たちが出迎える。
「社長!」
「沢山採れましたか?」
「大量よ。今日の晩酌はこれよ」
船から出て来たのは漁師の装いをした女性だった。
「あれ?あの人は…」
「Oceanの社長の篠崎晴海さんです」
「え…」
普段は上等なスーツに身を包んでいるが、公に立つ以外は研究所に籠ったり従業員と一緒に泥まみれ、砂まみれになって若芽を採取している。
「彼女は元は貧しい漁師の生まれで、幼少期にお父様を亡くされ船を奪われたそうです。今では大手企業の社長ですが、彼女は成り上がった今でも船で化粧品やシャンプーの海水を取りに行っています。彼女にとって海はすべてなのでしょう」
あくまで海水に拘った製品を作るのは、潮風が彼女にとって故郷なのだから。
「十さん、彼女は業界でもうまくやったとか…ラッキーと言われてます。でも、本当にそうでしょうか?」
「佐伯さん」
「製品を作るのは並大抵の努力ではありません。それを運が良かったなんて失礼だし…Oceanの製品はすべて彼女が愛情を持って作った子供。その子供を貴方は預かるんです」
「そうか…俺はそんな大事なモノを」
一代で成り上がるのはどれだけ大変か。
持続させるのはもっと難しいが、血のにじむような努力を重ねてきている。
「オーガニックにこだわるのは、消費者の安全を最優先する為。すべてはお客様の為です。アイドルも同じでしょう」
「うん、ファンの為に歌うのが俺の仕事」
「誰よりもお客様の事を思っている社長は以前に詐欺にあった事があったと聞きます。相手は男性アイドルだそうです」
「え!」
当時、ようやく売れ出したOceanのイメージモデルに選ばれた大手事務所のアイドルは事務所の名前を使ってやりたい方出して、CMは無茶苦茶にされ、あげくに従業員にも手を出したと聞く。
「一時期、会社はそのアイドルの行動で評判が悪くなりあした」
「そんな…」
酷い話だ。