第8章 【第五講 後半】文化祭といえばライブがつきもの●け姫
「またそんなこと言って。文化祭デストロイヤーも逮捕されたんだし、後は後輩達に任せても大丈夫でしょ。今年が最後なんだし、少しは楽しもうよ」
○○は校内地図を広げる。
見廻りのために持っていたパンフレットだが、もちろん屋台も記されている。
焼きそば、たこ焼き、焼き鳥、わた飴、りんご飴――
「この時間なら、安くなってるかもしれないよ。土方くん、おごってよ」
ニコニコと、○○は土方を見上げる。
「仕方ねーな。行きゃいいんだろ。でも、おごらねーからな」
土方はわざとらしい溜め息をついた。
「そうこなくっちゃ。行こ、土方くん、沖田くん!」
○○は屋台の方へと駆け出し、手招きをする。
土方は眉間に皺を寄せる。
「二人じゃねーのか……」
二人きりを期待していたわけではないが、てっきり二人だと思っていたため、つい漏れた言葉。
その声は耳聡く沖田に聞きつけられていた。
「へー、二人が良かったんですか?」
ニヤリと、沖田は笑みを浮かべる。
「なわけねーだろ!! なんだ、その笑いは!!」
ニヤリニヤリと、沖田の笑みが増す。
対照的に、土方の眉間の皺は増す。
「つーか、おめーら二人で行って来い! 俺はやっぱ見廻りだ!」
「何、意地張ってんですか」
「そんなもん張ってねェ!」
「んじゃ、遠慮なく□□とデートして来まさァ」
デート――
その単語に土方の胸の中で何かがザワザワと渦巻く。
「あれ? 土方くん? 行かないのー?」
○○が声を上げると、土方はズカズカと近づいた。
「行かねーんじゃなかったんですかィ、土方さん」
「どうしてもって言うなら、行ってやる」
じゃあ行こう、という言葉を期待した土方だったが、予想とは違う答えが○○からは返って来た。
「どうしてもとは言わないよ」
楽しみは人それぞれ。
良かれと思って誘ったが、乗り気でないなら本末転倒だ。
「見廻りの方がいいなら、来なくていいよ。時間ないし、沖田くん行こう」
「じゃ、土方さん、見廻りよろしくお願いしやーす」
心底底意地が悪そうな笑みを浮かべて振り返る沖田に、土方の腸が煮えくり返る。
【第六講】へ続く→