第18章 【第一四講】恋と抗争のドラマが織りなす境界線
「俺も大概、大バカだがな」
高杉はベンチから立ち上がると、学校へと向かった。
日直だから遅刻せずに来いと担任に言われ、こうしてやって来ている自分も相当の大バカだ。
○○はぽつねんと立ち尽くす。
「□□」
高杉は振り返った。
「風紀委員が遅刻ってのは、示しがつかねーんじゃねーか?」
高杉は冷ややかに笑っているが、そこに嘲るような色は見えなかった。
○○は歩き出し、高杉の横で信号が青に変わるのを待つ。
「朝から教室に向かう不良っていうのも、示しがつかないんじゃないの?」
「かもしれねーな」
高杉は薄く笑った。
○○は信号を見上げた。
赤く点灯する人間。○○の体も、あの人のように赤く火照っているかもしれない。
(……名前、覚えてくれてたんだ)
初めて、名前を呼ばれた。
今まで呼ばれたことがなかったから、覚えられていないのかもしれないとも思っていた。
新八が高杉達を助けようとしなければ、○○は帰っていた。帰るつもりだった。
プレハブ小屋の前で突っぱねられたことが、○○にはショックだった。
高杉がまともに取り合ってくれないことなど、初めからわかっていたはずなのに。
行き交う車を見て、高杉は大息した。
なかなか変わらない赤信号のためか、忌々しげに眉をしかめている。
その顔を見て、○○は思う。
本当に、高杉を放って帰れただろうか。
今となってはわからない。
【第十五講】へ続く