第17章 【第一三講】辻褄を合わせるのも楽じゃない
お昼ご飯を食べ終えた○○は、小説を読んでいた。
残り数ページ。図書室への返却期限は本日。
この休み時間でちょうど読み終わりそうな分量で、気持ちよく読み進めていた。
そんな所に、とんだ邪魔者が入った。
「緊急集会だ」
ペース配分を崩され、○○は不快な表情で言い返す。
「今忙しいんだけど」
「本読んでるだけだろ。さっさと来い」
有無を言わせず、土方は踵を返した。
その背中に○○は殺意を向けるが、言われたことには従い本を閉じる。
風紀委員の仕事は読書よりも優先だ。だが、その命令口調が腹立たしい。
沖田にも声をかけ、土方は近藤の席へと向かった。
「何事だ? トシ」
食後のバナナを貪り食いながら、近藤は土方を見上げる。
土方は一枚の紙を近藤へ手渡した。
「これが廊下に貼られていた」
「勝手に剥がしたの? 公職選挙法違反だよ!」
「選挙ポスターじゃねェ」
土方は○○のツッコミを軽くいなす。
「音楽コンテスト出場オーディション?」
近藤は紙面の内容を読み上げる。
――音楽コンテスト出場者募集!
――ジャンル不問!
――優勝賞金十万円!
――吉原商業に行きたいか!
内容について支障は全くない。
青春の一ページとして、生徒達に是非参加してもらいたい催しだ。
問題はただ一つ。
応募者はコチラまで、という場所に書かれた主催者の名前。
それは、風紀委員として見過ごすことの出来ない名前だった。
主催者:河上万斉
「あの河上か」
高杉一派の河上万斉。
プレハブ小屋に乗り込んだ時、言葉がウホウホに聞こえて話が通じないとコケにしたあの河上万斉。
「あのスカした男は好かん」
近藤はウホッとバナナを平らげた。