第16章 【第十二講】いつかまたこの場所で君とめぐり会いたいはチェリー
「あれ? 近藤さ――近藤さん!?」
「やっぱり、大空を飛ぶ夢は諦めない……!」
近藤は改造自転車にまたがっていた。
段ボールで作った羽根がついた、人力飛行機風ママチャリ。
進行方向に上り坂がある。木の板で出来た坂。その板の片側は屋上の柵にかけてあった。
「どっから持って来たの、その板!!」
「そこから飛ぶ気か!? 地面に真っ逆さまだぞ!!」
「ライト兄弟に、俺はなる……!」
「あんた一人だろ!!」
土方が言うが早いか、近藤はチャリを漕ぎ出し、○○は駆け出した。
○○を追うように、土方も走り出す。
自転車は加速し、その車体は一直線に柵の間近まで迫った。
「空も飛べるはず……!」
「スピッツ! じゃなくて、ゴリラァァァ!!」
手を伸ばしたが、間に合わない。
そのまま近藤は中空から落下――とはならなかった。
板が割れ、近藤は柵に激突した。
「……いい加減にしろ、バカゴリラ」
○○はぐったりと柵にもたれかかる。
眠気は覚めた。五限目の授業は睡眠時間にはならなそうだ。
空から降るゴリラの奇声、○○の悲鳴。二人の声は校舎裏の不良の耳に届いていた。
「晋ちゃーん、今日は三丁目のコロッケパン買って来たよ!」
見上げる隻眼は、柵にもたれて脱力する○○を捉えている。
【第一講】『人が恋に落ちる理由なんて意外と単純』に話は続く。