第13章 【第九講】どんな映画にも一箇所くらい見所はあるよね。ない?
「え、山崎、出てた?」
「出てました。いっぱい。○○さんよりも多く」
映画撮影で学食を食べ損ねた○○は、翌日、学食で出くわした山崎と共に牡蠣飯を頬張っていた。
「自分のシーン以外はカメラで見てたけど、全然気づかなかったよ」
「まァ、セリフなんかはなかったですからね……」
通行人A、B、C、D。生徒A、B。入院患者A。等々。
至る所にエキストラとして、山崎は映っていた。
だが、ワンカットも○○の記憶に残る姿はない。
「屁怒絽くんなんて、一瞬なのに物凄いインパクトだったよ」
「そりゃそーです」
ヘドロは演者ではなく、照明として参加していた。
だが、映り込んでしまった。
慌ててフレームアウトさせていたが、存在感は絶大。
「あの映画、いつ公開されるんだろうね」
「公開……されるとお思いで……?」
昨日、講堂にてたった三時間で映画は撮影された。
監督は黒駒勝男、ではなく、3Z担任の坂田銀八。
結局、3Zの中から主役の選出は出来ないと、オーディションは中止となった。
その後、お疲れの意を込めて差し入れた妙のダークマターにより撮影班は全滅。
責任を取るということで銀八がメガホンを握った。
勝男にとってはありがた迷惑を通り越し、単なる迷惑な所業だ。
試写などは行っていないが、撮影を見ているだけでとんでも問題作が出来上がったことは容易に想像できる。
「続編があるなら、もうちょっと出番がほしいなァ」
「あるわけないでしょう。オーディションすら面倒臭がってたのに、芝居にハマってるじゃないですか!」
坂田銀八監督作『カブキ―ヒルズ高校白書 シーズン2』に向け、○○はアッパーカットの腕を磨く。
【第十講】へ続く→