第13章 【第九講】どんな映画にも一箇所くらい見所はあるよね。ない?
冬のある日の一限目。
朝も早よから気だるい目をして現れた銀八は、生徒達にこう告げた。
「今日の授業は中止だ」
その言葉に、教室はザワつく。
と言いたい所だが、全く微塵も毛程もザワつかない。
何か緊急事態があったのか、などと驚く者は一人もいない。
生徒達は口々に理由を言い募る。
「また教科書忘れたンすか?」と土方。
「ジャンプ買い忘れて今から買ってくるとか?」と長谷川。
「今日は発売日じゃないわよ」と妙。
「白衣にコーヒーこぼしてクリーニングに出してくるとか」と近藤。
「先生、コーヒーのシミは重曹でラクに落とせますよ」と桂。
「先生、私が洗濯して差し上げます。さァ、脱いで!」と変態くノ一メガネっ子。
白衣を脱がそうと襲い来るさっちゃんの顔面を抑えながら、
「違ェ。俺のせいにすんな。理事長からのお達しだ」
銀八が疑われるのは、この教師の日頃の行いのせいであるから仕方がない。
「これから、オーディションを行う」
その言葉には、少しだけ生徒達はザワついた。
「オーディション?」
皆一様に怪訝な表情を浮かべる中、早合点したさっちゃんだけが盛り上がる。
「銀八先生のお嫁さんを決めるオーディション!? それなら、私に決まァァァ――!」
メガネを貫通し、さっちゃんの両目に銀八の指がぶっ刺さる。
「目がァァ!! 目がァァ!! 私の中に銀八先生の指が……興奮するじゃないのォォォ!!」
頬を赤らめるさっちゃんを教室の後ろへ転がして追いやると、銀八は何事もなかったように話を続けた。