第5章 河上万斉《聖夜の謀》※高杉の恋人/裏切り
「だったら、私の前でつけてることないじゃない」
○○は手を伸ばし、万斉のサングラスを剥ぎ取った。
万斉の素顔を見た○○は、眉間に皺を寄せて首を傾げる。
「普通の顔だし、つまんない」
「どんな顔だと思っていたでござるか」
万斉は○○を見つめた。
正面から、瞬きもせずにジッと見続ける。
○○は視線を逸らした。
「サングラスしてないと、万斉さんじゃないみたい」
サングラスを戻そうと○○は手を伸ばした。だが、その両手首を捕まれた。
○○は驚いて目を見開く。真っ直ぐな視線は、未だ○○の瞳に注がれている。
「サングラス越しであれば、視線に気づかぬでござろう」
手を下ろされる。
「拙者はいつも見ていたでござる。ずっと。○○を」
視線を受け止められず、○○は床に目を落とす。
「万斉さん、酔ってる……わけないよね」
万斉はアルコールを口にしていない。
只々、○○の口から吐き出される高杉に対する愚痴に付き合っていた。
憂いと寂しさに沈む、○○の顔を見ながら。
「○○の前でこそ、これが必要でござった」
抑えきれない、想いを隠すため。
○○は顔を上げた。その表情には困惑の色が浮かんでいた。
万斉は顔を近づけ、唇を重ねた。○○は拒まなかった。