• テキストサイズ

~あさきみじかしゆめ~ 銀魂短篇集

第5章 河上万斉《聖夜の謀》※高杉の恋人/裏切り


「晋助に知れたら、何をされるかわからぬでござるな」
「関係ないよ」

 ○○の顔が不快の色を示す。

「まだ怒っているでござるか」

 ○○はかぶりを振った。

「違う。晋助にとって、私が関係ないっていうこと」

 高杉は自分のことを気にかけてなどいない。
 誰とキスをしようが、誰に抱かれようが、彼は何も感じない。
 ○○はそう思っている。

「○○」

 ○○は高杉の本心に気づいていない。
 地球への同行を拒んだ理由は、そこが○○の故郷であるがゆえ。
 故郷を目にして、留まりたくなる気持ちが生まれる可能性は充分にある。
 ○○が自分の元から去ることがないよう、同行を拒絶した。
 万斉を艦船に残したのは、何かがあった時に○○を護る者の存在を必要としたから。
 ○○に対する万斉の想いを知らない高杉は、彼が自分を裏切るなどとは思い及んでいない。

「○○、おぬしは……」

 脅されるように拐かされ、不本意ながら船の中に押し込まれて生きる羽目になったが、○○の中にも高杉に対する情が芽生えている。
 高杉が戻った時に自分がどんな顔をしているか、○○自身は気づいていないのだろう。
 自分ではない男に対してのみ向けられる愛おしげなその顔が、万斉の視線を捕らえて離さない。

「攫ってくれたのが、万斉さんだったら……」

 万斉が○○と向き合って話すのは、高杉が不在の時だけ。その瞳には孤独しか見えない。
 ○○の目には、目の前にいる自分は映っていない。○○が見ているのは高杉だけ。
 気持ちを押し隠したままで構わない。そう思っていたはずだった。

 ――晋助、すまぬ。

 万斉は心中で友に謝罪する。

「○○……愛している」

 万斉は再び○○に唇を重ねた。自らの指を○○の指に絡める。
 聖なる夜に謀られた、一度限りの裏切り。

(了)
/ 140ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp