第5章 河上万斉《聖夜の謀》※高杉の恋人/裏切り
「晋助に知れたら、何をされるかわからぬでござるな」
「関係ないよ」
○○の顔が不快の色を示す。
「まだ怒っているでござるか」
○○はかぶりを振った。
「違う。晋助にとって、私が関係ないっていうこと」
高杉は自分のことを気にかけてなどいない。
誰とキスをしようが、誰に抱かれようが、彼は何も感じない。
○○はそう思っている。
「○○」
○○は高杉の本心に気づいていない。
地球への同行を拒んだ理由は、そこが○○の故郷であるがゆえ。
故郷を目にして、留まりたくなる気持ちが生まれる可能性は充分にある。
○○が自分の元から去ることがないよう、同行を拒絶した。
万斉を艦船に残したのは、何かがあった時に○○を護る者の存在を必要としたから。
○○に対する万斉の想いを知らない高杉は、彼が自分を裏切るなどとは思い及んでいない。
「○○、おぬしは……」
脅されるように拐かされ、不本意ながら船の中に押し込まれて生きる羽目になったが、○○の中にも高杉に対する情が芽生えている。
高杉が戻った時に自分がどんな顔をしているか、○○自身は気づいていないのだろう。
自分ではない男に対してのみ向けられる愛おしげなその顔が、万斉の視線を捕らえて離さない。
「攫ってくれたのが、万斉さんだったら……」
万斉が○○と向き合って話すのは、高杉が不在の時だけ。その瞳には孤独しか見えない。
○○の目には、目の前にいる自分は映っていない。○○が見ているのは高杉だけ。
気持ちを押し隠したままで構わない。そう思っていたはずだった。
――晋助、すまぬ。
万斉は心中で友に謝罪する。
「○○……愛している」
万斉は再び○○に唇を重ねた。自らの指を○○の指に絡める。
聖なる夜に謀られた、一度限りの裏切り。
(了)