第4章 第三章雨の日の秘め事
誰かが髪を撫でていた。
心地よいけど、私の知っている手じゃない。
――太郎の手じゃない。
凛人でも律でも響でもない大きな手だった。
「奏音さんそろそろ起きて」
「んー」
「じゃないと襲っちゃうよ」
はい?
何時もと違う天井にドアップの万理さん。
「おはよう」
「オハヨウゴザイマス」
「なんで片言?まぁいいか。朝ごはんができているよ」
爽やかな万理さんの笑顔とお味噌汁の香りと共に私の腹時計の音が聞こえた。
「ちょうどいいみたいだね」
「すいません」
穴があったら入りたい。
でも私の体は正直だった。
「万理さん天才です」
「そう?たくさん食べてね」
食卓にはザ・和食だった。
出汁巻卵にほうれん草のお浸しに塩じゃけ。
味は薄味だけど最高だった。
「くっ…何でスパダリな」
「大げさだな」
いやいや、仕事もできて家事も完璧にこなすなんて普通は無理ですよ。
「響也さんだってすごいでしょ?」
「響は極端です。生活力はないですよ…家事はあんまり得意じゃないし。律は論外です」
今でこそ普通にこなせるようになった響だけど。
十年前は酷かったんだもん。
「響は目玉焼きを作るとよく爆発させてました」
「どうした爆発するの」
「律はもっと酷いです」
今思えばあの二人、よく今まで生きてこれたな。
まぁ稼いでいるから自炊しなくても外食は出来るし、私の所に泊まりに来ることも多かった。
「ちなみに律の好物は甘い卵焼きです」
「やっぱり?」
「でも響は卵焼きは醬油をかけたいから喧嘩になるんです」
私は断然出汁巻派だけど。
「なんか想像つかないな。あの二人は大人だし」
「大人?ないですよ。今は落ち着いていますけど…十年前までは常に喧嘩してばかりだったし。今でも仕事の事で喧嘩してます」
まぁ、すぐに仲直りをするけど。
取っ組み合いの喧嘩はあまりしないで欲しいんだけどな。
「なんだか妬けるな。三人は本当に仲がいいから」
「二人共万理さんの事も大好きですよ」
「社長にも言われたよ」
慰めじゃなくて本当だもの。
あの二人はあれで好き嫌いが激しいけど、万理さんのことは大好きだ。
付き合いの長い音晴さんですら距離を持っているのに。
でもその理由を私は知らない。