第11章 今はもういない両親を思い出させた
(私、どうしたんだろ……胸が苦しい……なにかの病気、なのかな?)
さっきは胸が痛んで今度はこの胸の苦しみ。
私の心臓か肺はどうにかなってしまったのだろうか。
だけど、なぜかその苦しみを不快に思わなくて。
なにもかも変だ。おかしい。
(しのぶちゃんに診てもらおう)
私はそっと指先で、冨岡さんが触れたおでこに触ってみた。
なんだか冨岡さんに触れられたおでこが、まだ熱をもっているような気がした。
男の人とあそこまで近付いたことなんて、これまでなかった。
医者以外の人にあんな風に触れられたこともないし。
男性に対してこういう免疫のない私は馬鹿正直に変な反応してしまった。
冨岡さん、変に思わなかったかな。
嫌に思わなかっただろうか。
謝ったほうが、いいのかな………
このまま帰ろうか、冨岡さんのところに引き返そうか迷った。
「桜、待て」
「!」
肩を掴まれて後ろを向かされた。
「体調が悪い時に走るな」
「………」
冨岡さん、心配して追いかけてくれたんだ。
そう思ったと同時に胸の奥がキュンとふるえた。
たぶん嬉しかったんだと思う。
体調のことで人から心配されるのは久しぶりだった。
その優しさは、今はもういない両親を思い出させた。