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あなたがたった一度の恋でした【鬼滅の刃】

第7章 「どうした、こんな場所で」







(そういえば私冨岡さんの背中しか見たことない気がするな)



ふとそんなことを思った。

戦いの最中(さなか)、見ていたのは鬼の姿だったのに、日輪刀の柄を持つ手に力を込めた瞬間、目にするのはいつだって冨岡さんの背中だった。

時には背中合わせで戦ったりもした。

その頼もしい背中はいつも私を守ってくれているようで。

私も安心して頼りきっていた。

鬼のような強さを持つ冨岡さんに。


鬼を鋭い眼(まなこ)で見据える冨岡さんの横顔を急に思い出した。



(っ、なに……?)



急に胸の鼓動が早くなった気がした。

トクトク、と小刻みに。

自分でも戸惑うこの鼓動を落ち着けようと胸に手を当てた時だった。






「桜?」

「冨岡さん?」



名前を呼ばれ振り返れば少し驚いた表情の冨岡さんが立っていた。

任務が終わったんだ。



「おかえりなさい、冨岡さん」

「……………」



駆け寄って挨拶をしたのに冨岡さんはぽかんとして、しまいにはフイと顔を背けられてしまった。

警備は何事もなく終わったみたいだけど、冨岡さんも疲れてるんだろうか。

そう思いつつ、あからさまに顔をそらさせると胸にズンと重いものがのしかかったような気がした。



「どうした、こんな場所で」

「こんな?」



冨岡さんにそう言われてハッとした。

だってここ、冨岡さんの屋敷の前じゃないか。

師範の事を考えるあまり、自然と足がここに向かってしまったのかもしれない。

恥ずかしいし、私ってこんな乙女だったっけと自分でも疑問に思う。

冨岡さんにも変に思われていないだろうか。



「なにか急ぎでもあったのか?」

「いえ、別に、なんでも…………そう!稽古をお願いしようかとっ、」



必死でその場しのぎのために作り出した言い訳は苦しかったかもしれない。

だって冨岡さんが任務だってことを私が知っていることを冨岡さんは知っているのだから。

本当に用もないのにどうして来てしまったのだろうと私自身でも思う。

とにかく、これ以上おかしなことを口走って冨岡さんからますます変に思われる前に帰ろう。



「でもお疲れですよね。明日出直してきます!」



失礼しました、とお辞儀をして私は足早にその場を去ろうと冨岡さんの横を過ぎようとした。





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