第67章 私に構わず禰豆子のところに行きなさい
柱でさえ未だ誰一人として一度も鬼舞辻に接触したことがない。
どんな姿をしていて、どんな能力を使うのか、どこで遭遇したのか、聞き出したいことが山積みで、柱たちは矢継ぎ早に炭治郎から我先にと聞き出そうとする。
揉みくちゃにされる炭治郎と、揉みくちゃにする柱たち。
それでも、耀哉が唇の前で人差し指をスッと立てると騒ぎは一瞬で静まってしまう。
「鬼舞辻はね炭治郎に向けて追手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない。恐らくは禰豆子にも。鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているのだと思うんだ。わかってくれるかな?」
だから炭治郎と禰豆子のことを容認してほしいと、最後までは言わないもそういったニュアンスを匂わせた耀哉の言葉をみんなは黙って聞いていた。
だが、その静寂を破ったのは、またしても実弥だ。
「わかりません、お館様!人間ならば生かしておいてもいいが鬼は駄目です!承知できない!」
ギリギリと強く奥歯を噛み締めている。
いくら耀哉の言葉とて、到底納得のできることではない実弥は、何を思ったのか突然日輪刀で自らの左腕を斬りつけた。
飛び散った血が屋敷の庭を汚す。
「お館様…!証明しますよ俺が!鬼という物の醜さを!!」
自らの体を張って。
『人を襲うということもまた証明できない』それを覆すために。
「オイ鬼!!飯の時間だぞ喰らいつけ!!」
実弥は禰豆子の入った箱の上に自らの血を滴らせたのだ。
血を囮に自らを禰豆子に襲わせるつもりなのだ。
桜はそこまでする実弥に唖然としていた。
「不死川、日なたでは駄目だ。日陰に行かねば鬼は出て来ない」
「お館様、失礼仕る」
小芭内の余計な助言を受け実弥は禰豆子の箱を鷲掴むと部屋の中へと一瞬で移動した。
そして、実弥がもう一度、刃を箱に向ける。
さきほど実弥が禰豆子に何をしたのか。
炭治郎も桜も忘れはしない。
「やめろーーーーっ!!!!」
禰豆子に駆け寄るため体を起こした炭治郎を阻止しようと小芭内が動いた。