第5章 『俺はおまえの能力は素晴らしいと思う』※義勇視点
しのぶの手伝いに来た桜に付いてきた義勇は、桜と一緒に病室に向かった。
そこに運びこまれたのは昨日、桜と共に任務に就いていた隊士だとその道すがらしのぶに聞いた。
しのぶはというとそのうちの重傷者の治療にあたるようで、比較的軽症ですんだ隊士達の治療を桜にお願いしていた。
笑顔で一度頷いて承諾する桜を見て義勇は思った。
笑ってはいるが、彼女の胸中はきっと己を責めているに違いないと。
自分がうまく立ち回ることができれば負傷者を大勢出さずにすんだんじゃないかと責任感の強い彼女ならそう思っているはずだ。
実際、他の柱の元に応援要請が出されようとしていたことをあとから知った。(義勇はちょうど他の任務に就いていたので間に合うことができなかった)
だけど、なんとか桜の力で乗り越えたことを義勇は師範として誇りに思っていた。
本人にそれを言えば、きっとまだまだ未熟だと返ってくるのだろうが。
桜は柱ではない、それなのに他の隊士を預かり指揮する権限を与えられたこと、死者が出なかったことを素直に喜べばいいのに。
優しい彼女は己の采配ミスにより傷ついた隊士を見て傷つくのだ。
それを支えてやらなければという思いが、いつしか恋心へと変わるのにそう時間はかからなかった。
「みなさん、こんにちは」
桜が病室に現れると、中から歓声が上がった。
やはり、ここでも彼女の人気を思い知らされた。
病室の中のどんよりとした空気が、桜が来ることにより明るいものへと変わる。
敵は違う意味で鬼だけではなさそうだと義勇は溜め息をつく。
自然と隊士を見る義勇の目付きが鋭くなっていたのか、それに気づいた隊士達の顔色が悪化していくのを見て牽制はできているようだと内心ほくそ笑む自分がいた。