第8章 脱出 ★
降:「多分、ターゲットの暗殺偽装を疑っているのかと」
赤:「ああ。ターゲットの死体が一体も出ていないからか」
僕が全てを話さずとも、赤井はスムーズに理解してくれる。
冷静さを欠いている今の僕にとって、スムーズに進む赤井との会話は、どこか心地よい。
(立場が違っていたら、信頼のおけるパートナーとして働けたのだろうか)
そんな事を考えてしまうほど、僕はミアが連れ去られた事実にショックを受けていたようだ。
自身の状態に気づいた僕は、黙り込んでしまう。
沈黙を破ったのは、赤井だった。
赤:「降谷くん。前にも言ったと思うが…」
降:「狩るべき相手を見誤るな。ですか?」
赤:「ああ。君も俺も、組織壊滅を目的にしている。そして今は、彼女を救うことが優先事項だ」
降:「わかっています、赤井。僕は、自分自身に怒りを覚えているだけですから」
赤:「ああ。君らしいな…」
降:「わかったような口を利かないでください」
赤井の余裕そうな素振りに、僕はこれ以上、彼をつけ上がらせるわけには行かないと再び対抗心を燃やす。
赤:「すまん。言いすぎた。それよりも、どうする?」
僕の対抗心に敏感に反応した赤井は、すぐに話題を逸らした。
僕もそれに気づいて、すぐに思考を切り替える。
降:「僕の予測が当たっていたら、ジンはミアだけではなく、僕も抹殺しようとするはずです」
赤:「ああ、そうだろうな」
降:「しかし、それはできません」
赤:「何故だ?」
降:「これはRUMの指示では無いからです」
赤:「なんだと?」
僕はジンの電話を切った後、RUMから次の任務指示がミア宛に来たことを赤井に話した。
ミアの携帯に届くメールは全て、僕の携帯に転送されるように設定していたことが功を奏した。
とはいえ、拘束されているミア本人は確認できていないだろう。
僕は、この事実を知らないでいるミアの身を案じた。
そして彼女を助けるべく僕は、ある提案を赤井に持ちかける。