第10章 チャイムの鳴る前に
●黒子 side● 〜図書室前〜
『いい?手、離すよ?』
「そんな心配しなくても大丈夫ですよ」
『うん…じゃあ、お願い』
黒子が、なかなか手を離そうとしない藤堂を安心させるため、
「はい。任せてくださ」
意気揚々と「任せてください」と、言い切るよりも先に…
黒子の手のひらに、ズシンッ!!と負荷がかかった。
「え?」
手のひらにかかった重さは、徐々に黒子の腕…肩…背中…腰へと移り。
踏ん張りきれなかった下半身のせいで、黒子の身体は人体の構造に忠実に、腰からポキッと前屈みに倒れ始める。
それに伴い、黒子の視界は縦にブレて、視線は大きく下へと落ちた。
世界が廊下の色で埋め尽くされていくにつれ、衝突の恐怖から心臓がヒュンッ!と嫌な跳ね方をした。
黒子は本能で分かった。
「あ、これ“ダメな重さ”だ…」と。
逃れる術も、抵抗する間も与えぬまま、黒子が天から引き継いだ冊子の山は、廊下に落ちてドシンッ!!と音を放った。
「へぐぅ!!」
『黒子くーーーん!!』
瞬間、廊下中にけたたましい落下音と藤堂の驚愕の声が響いた。
音は反響を繰り返し、こだまとなって、長い廊下の奥の方まで飛んでいった。
冊子の山を落としたまさにその瞬間、黒子はやっと実感した。
「重い…」と。
黒子に「重い」と思わせる暇も与えなかった。
つまり黒子は、藤堂から手渡されたその重量に、1秒も耐えられなかったのだ。
そこそこ重いのは、覚悟できていたはずだった。
しかし、まさかこれほどまでとは想像もしていなかった。
「ぐっ!藤堂…さんっ…!」
『大丈夫かよ?!い…いま助けるから!!』
藤堂が手渡そうとしなかったのは、単なる強がりだと思っていた。
しかし、そうではなかった。
これほど重いものを持ちながら、自分と普通に会話していたのだと知った黒子は、手に痛みが広がるのを実感しながら、なぜあれほどまでに涼しげな顔が出来るのか不思議に思った。