第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
今は一時的に、学校全体でそういうタイミングだし。
勧誘を覚悟していなかったと言えば噓になるだろう。
だとしてもだ。
己に向けられたそれが、バスケ部からと気づいた時は、さすがの天も肝を冷やした。
…が、結局のところ。
天に影響を与えるなんてこと、不可能なのかもしれない。
それが何であろうと。
誰であろうと。
その証拠に、ビラを受け取った程度で天の気が変わることはなかった。
まぁ、それも当たり前だろうか?
大前提として彼女には、バスケ部に入るという選択肢は、端から用意されていないのだから。
なぜなら、この誠凛高校には“男バス”はあっても“女バス”はない。
在学期間中、天にはプレイどころかバスケに関わる機会すら巡ってこない。
…と、天は思っていた。
・・・・
だが、まさかこんな形で抜け道が用意されているとは考えもしなかった。
それは…
「いまマネージャー募集しててさ!
まだ決まってないなら、どうかな?!」
まさしく、盲点だった。
天はその瞬間から、勧誘において自分の性別を盾にすることが、一切出来なくなってしまったのだ。
そして、それ以上に色濃く身に染みてしまったんだ。
「プレイヤーではない自分が望まれている」ということに。
そこに、心嬉しさは。
感じなかった。
それでなくとも、天はどの道バスケ部には入部しなかっただろう。
そして幸いにも、素性は未だバレていない。
このまま、自分とその過去を隠し通せさえ出来れば。
天の学生生活は、なんら問題なく続いていく。
そう信じることに懸けて来たから。
彼女には、信じ続けることしか残されていない。
だから天は、ビラをその乱れた心情の成すままに机の上に放った。
そして再び、コンビニ袋を漁る。
まるで、さっきまでのことを無かったことにするかのように。
いや…本当になかったことになっている。
もう既に、天の中では…
そして、
『一発目は…』
先程までバスケ部のビラを手にしていたその左手は、
『イチゴか』
もう既に、別のもので埋められてしまっていた。