第5章 第五章大きなワンコと変なおじさん
未練なんて残したくない。
私はそんな惨めな女に成り下がりたくなかったんだから!
「現段階ではということだね?」
「え?」
「聞いていたか?我々は断ったんだか…」
小鳥遊さんは笑顔なのに、何故かぐいぐい押してくる。
「君の言い分では、見込みのあるタレントなら問題ないってことだね!」
「えっ…いや」
「そうです。なら直接タレントを見ていただけば問題ありません!」
私の話聞いてた?
遠慮なくぐいぐい来るわね!
「まぁ、君達も良かったらどうぞ」
「何?ちょっと!」
「貴様!兄者を何処に連れて行く気だ!」
我が本丸一の自由人の髭切の腕を掴み出て行ってしまう。
膝丸も怒って後を追いかけて居なくなってしまう。
残されたのは万と私だけだった。
「えーっと…零歌久しぶりだね」
「そうですね大神さん」
「うっ…」
私は決して名前で呼ばず大神さんを強調した。
「お元気そうでようございましたわ。失踪して心配してましたけど…その必要はないようで」
「あー…うん」
「別にお気になさらないでください。私も新しい環境で気心してた同僚と仕事をしてますので…」
言い方は悪いけど、これが精いっぱいだった。
虚勢を張り続けないと、私は耐え切れなくなるかもしれない。
「君がRe:valeのメンバーにいないのを知って驚いたよ」
「追い出されましたので」
「え?」
「私は貴方の抜けた穴を埋めることはできませんでしたから。だから私は彼の元から去りました」
あの日の言葉は今にも胸に突き刺さる。
万がいなくなって精神的にも追い込まれていた千は私に八つ当たりをしないとダメだったのかもしれない。
でも、あのまま彼の傍にいてはダメだった気がする。
「元より私はRe:valeのメンバーですらなかった」
「そんなこと!」
「まぁ、過去の話です。過去は捨てることにしたのです」
そう、私は今を生きる為に過去を捨てて前を見て生きて行くことにした。
「だから私に負い目を感じているのであれば辞めてください。私は過去にすがって生きる様な惨めな女じゃない。貴方に捨てられて傷つきはしたけど…私なりに前を向いている。だから同情しないで」
病気の事も知られてしまった。
同情なんてまっぴらだわ。