第5章 第五章大きなワンコと変なおじさん
アイドルも役者も仮面を被り、時にはファンの求める姿を維持しなくてはならない。
「そうね…嘘かもしれないけど。きぐるみとおなじかもしれないわ」
「きぐるみ?」
「デパートのきぐるみなんか、中の人が違うじゃない?それと同じ」
お客さんが望むものを提供するけど、中に入っている人は別と考えなくてはならない。
「でも…俺」
「そうねぇ?貴方は確かにセクシーさはあるわね」
「そっ、そんな」
真っ赤になる十さんは顔を横に振るけど、私が言うセクシーさはエロの事じゃない。
「なんていうか男性の持つセクシーさってただ性的な部分じゃないのよ?女性が安心できる部分もあるし…海のように広い包容力もあるわ」
ある意味、あの三人の中でセクシーさを持つとすれば十さんが適任かもしれない。
「この二人にはそれぞれ魅力はあるけど、男性としての包容力が欠けているわ…その点、貴女には女性が身を委ねたくなる安心感が強いわ」
「そっ…そうですか」
「貴方は優しさがにじみ出ているし…その分ギャップがあるわ。だからこそ違う一面で売り出したのでしょうけど…忘れないで」
私は十さんの最大の魅力を忘れないで欲しかった。
「貴方自身の魅力はその溢れるばかりの優しさよ。その温かさ…海のように深い愛情を忘れないで」
きっと他のメンバーも十さんの優しさに救われている部分はあるはず。
歌が抜群に上手くて容姿にも恵まれている千だったけど、彼はソロで活躍するには向いていない。
「TRIGGERはソロでは致命的よ?でもユニットだからこそ売れる…ユニットでは支える人間は貴重なの」
「え?」
「TRIGGERを支えるキーパーソンは貴方よ。自信を持って」
かつてRe:valeの土台を作った万。
彼がいなくては千は歌うことはできなかっただろう。
傍で見ていた私だからこそ解る。
「貴方がないねくては、TRIGGERは成り立たないわ」
「俺…ずっと自信なくて」
「なくて当然と思いますけど」
私だって自信なんてないし。
今でも不安を抱いているけど、誰かしら自信をもってないのかもしれない。
「誰も最初から自信はないわ。でも、努力は裏切らないわ」
積み重ねたレッスンが結果につながる。
「後は自分を信じて結果を出すしかないわ」
十さんはきっと大丈夫な気がした。