第2章 第二章迷える子羊
肩で息をしながら汗だくになる百ちゃんに声をかける。
「足の軸に力が入ってないわ。だからターンした時にふらつくのよ」
「えっ…」
「もう一度やって」
「あっ…はい」
今の私にしてあげられることは少ない。
人の口に戸は立てられないけど、彼を違う形で守れることはできる。
まだダイヤモンドの原石でしかない彼を徹底的に磨く。
「私の手拍子に合わせて。三拍子の間にリズムを刻んで」
「はっ…はい」
「あまり上げ過ぎないで」
手拍子をしながら、リズムを取るように言えばすぐに対応ができる。
彼はサッカーをしていただけあって脚力がある。
リズム感も悪くないし、歌よりもダンスのセンスがある。
「顔を上げて、必ず笑顔を」
「はい…」
「ダンスの基本は笑顔。見てくれる人に笑顔にする。ダンサーが暗い顔をしていたらダメよ」
私は音楽よりもダンサーとして学んだ期間が長い。
それというのも、藤崎家は茶道家本家であるけど元は日本舞踊の家柄でもあった。
祖母は元日本舞踊の生まれだったし。
三歳の頃から日本舞踊を学び、様々なダンスを教えられた。
より美しい舞を踊る為に。
「手も気をつけて、指先は目立つから」
「はい!」
一時間ほどこのやりとりは続いた。
「ありがとうございますレイさん!」
「私が勝手にしたのよ…それに百ちゃんには謝らないといけないわ」ごめんなさい」
「え?」
「私は自分が辛いばかりに貴方にすべてを押し付けた。貴方がどれだけ苦労したか…さぞ辛かったでしょうね」
手を握ると氷のように冷たく、荒れている。
きっと想像を絶する苦しみに耐えていたのかもしれない。
「俺…ユキさんに歌って欲しくて…歌辞めて欲しくなくて」
「ええ…」
「でも、バンさんが見つからなくて。どうしたらいい変わらなくて。だからバンさんが見つかるまで一緒に組んでくださいって言って」
「ええ」
「でも、姉ちゃんも許してくれなくて!」
きっと誰もが百ちゃんを批難しただろう。
「Re:valeを純粋に好きな人は許せないと言う人もいる。でも、貴方を責めていいわけじゃない。貴方がいなかったらRe:valeは消えていたの」
「ごめんなさい!」
泣きながら私にしがみつく手は大きいのに小さく感じた。