第2章 第二章迷える子羊
再スタートを決めた私は近くの文具店で必要な物を買いに向かった。
今でこそ、音楽はパソコンで可能だけど、私は古いやり方をして音楽を作っていた。
作詞に関しても同じだった。
「デビュー前のアイドルの曲を作詞か…」
少しワクワクした。
音楽を、作詞を辞めてからしばらくしたから。
「たのしそうだね主」
「うん…」
「良かった。君には笑顔が一番だよ」
私は恵まれている。
きっと私のように理不尽な現実に心を壊してしまった人は多くいるだろう。
なのに私は悲劇のヒロインぶっていた。
辛くても前を向いて歩かなくてはならないのに自暴自棄になってすべてを諦めて、心配してくれる人に散々心配をかけていて。
何をやっているんだろう。
一人いなくなった万はきっと、私達よりも早く一人で歩き始めたんだろう。
「あっ…」
ふと、また聞こえた音楽に耳を奪われた。
「この曲、ホテルでも流れていたよね」
「うん、この曲は…」
「あー!またRe:Valeだ!」
私の言葉を遮るように女子高生が声を上げた。
やっぱり人気があるのだと思っていたのに。
「つーかさ、百ってうざいよね」
え?
「本当よね?万がいなくなってちゃっかり後釜に収まって我が物顔でRe:vale名乗るなっての!案外、照明落としたのアイツなんじゃない?」
「うわぁ!最低じゃない…ネットでも百のバッシング多いし?消えてくれればいいのに」
「歌もダンスも対して上手くないのにアイドル名乗るなよって感じ?マジうざいんですけど」
聞こえてくる雑音と同時に私の体が侵食される。
これは…
「主、気をつけて。君は審神者故に、負の気を感じやすくなっている」
「えっ…」
周りの空気が重苦しく感じる。
まるで瘴気のようだった。
憎悪が強くなり、空気を澱ませている。
「出た方いい」
「ええ…」
体が寒い。
震えが止まらない程の殺意が籠った憎悪に私は怯えた。
けれど、こんな憎悪を受けている百ちゃんは?
彼は今どんな気持ちでいるの?
この時私は百ちゃんがどれ程苦しめられ追い詰められているか知らなかった。
芸能界は嫉妬と欲望の塊だった事を知っていたのに。
知っていたはずなのに何も解っていなかった。