第2章 第二章迷える子羊
私にはまだ音楽がある。
指は動くのだから、もっと作れるはずだわ。
「主、僕は元気だった頃の主に会いたいよ」
「え?」
「昔の君は強かった。どんな逆行もバネして立ち向かうような無茶な性格だったけど…そんな君が好きだったよ」
優しい髭切。
普段は自由過ぎて好き放題に周りを振り回していたけど。
でも、本当は誰よりも聡明な人。
「髭切は時折達観してる」
「そりゃ?千年も生きていたらね?」
「そっか…そうだよね」
髭切は神様だもの。
私なんかよりもずっと達観していて当然だわ。
「髭切、いいのかな?我儘言って」
「ある意味泣いて喜ぶんじゃない?変態刀とかは特に」
変態って…。
「兄者、亀甲と村正が余りにも哀れでないか?」
「だって、現世ではああいう自虐的な趣向を持つのを変態って言うでしょ」
「何所で覚えたの!」
「え?ネット」
平安組の刀は流行に目ざとい。
既にパソコンやタブレットを軽々と使いこなすぐらいだった。
おかしな方向に進んで犯罪魔がないな事を覚えなければいいけど。
「折角だからさ、主のこれ受けようよ」
「ん?」
ホテルのパンフレットに目が入る。
「作詞コンクール?」
「主、古歌も得意じゃない?」
「いや、これは作詞であって。髭切の言う古歌じゃないから」
「でも踊りながら歌うんでしょ」
確かにアイドルは歌って踊るけど、白拍子とは若干異なるんだけどね。
「いいじゃないか、やってみれば」
「ほら、髭丸も言っているし」
「兄者!俺は膝丸だ!ひ・ざ・ま・る!」
諦めていた夢をもう一度別の形で追いかけてもいいかな?
皆に迷惑をかけるかもしれない。
でも――。
皆はきっと。
笑って背を押してくれるような気がした。